菅野美術館は、仙台の北東、古い港町塩釜の一角、遠くに海を望める丘陵地に建てられた小さな美術館です。
西洋の近代彫刻を中心としたコレクションは、30数年前に彫刻に魅せられた個人が手に入れた一つの作品に始まり、長い年月の間に作品や作家との出会いによってもたらされた8点の作品が基本になっております。
ロダンやブールデル、デスピオなどのフランス彫刻のエッセンス、イギリス彫刻の巨匠ムーア、そして日本人にはなじみの深いイタリアの作家たち、マリーニやマンズー等、個人の趣味を反映しながらも、質の高い作品群といえると思います。
このコレクションを中心に年に数回の企画展を開催するほか、コンサート、講演などを行い、地域に活気ある高質の文化を発信してゆきたいと考えております。さらには、世界と交流するセンターとしての美術館をめざしたいと願っております。
また、この美術館は建物自体がアートワークであることも大きな特徴としています。気鋭の建築家阿部仁史氏によって、鋼板を用いたユニークな外観のみならず、内部にも個性的な空間が実現いたしました。光と壁、そして彫刻作品の織りなす美しく緊張感のある空間を堪能していただきたいと思います。
2006年3月
財団法人 菅野美術館
館長 菅野喜與
小さなカテドラル
塩竈市の太平洋を見渡せる丘陵地に立つ菅野美術館は、ブールデル、グレコ、デスピオ、ムーア、ファッツィーニ、マンズー、マリーニ、ロダンといった作家による8点の彫刻を常設展示するための小さな空間です。この美術館のデザインは、一般の美術館のようにどんな展示にも対応する抽象的な白い箱ではなく、8点の彫刻と展示作品が不可分に結びつき、彫刻と場が一体となったちょうどカテドラルのような空間を創り出すことを目指しています。
建物は、10m×12m×10mのヴォリュームに、彫刻に対応するシャボン玉のような8つの小空間が内容されたような構成となっています。それぞれの小空間は、1平方メートルあたり25個の外側に向けて突起するエンボス加工が施された3.2mm厚の鉄板でつくられており、それぞれの小空間の表面にあるエンボスの突起群とそれに背中会わせに隣接する小空間の突起群とが溶接されることで、境界面をハニカムパネルとし、互いに支え合う独特の構造を成立させています。来館者は、敷地の高低差を結ぶ連続したこれらの小空間を巡りながら、8点の彫刻を体験していくことになります。建物の内外に現れるエンボス模様は、この美術館のデザインにおいて特徴的なもので、必要とされる強度と鉄板の加工性によって決定された構造的な要素でありながら、室内に光と影が生む美しい壁紙のような効果を生み出し、外壁においてはコールテン鋼の味わい深い質感の変化をもたらします。
菅野美術館はその空間そのものが展示作品であるような美術館です。この他に類を見ない建築が、地域の芸術活動を刺激し続けることを願ってやみません。
阿部仁史 (建築家)
